*口から肛門までの長くて大きな馬の腸管は、食べた飼料から馬体に必要な栄養・エネルギーを得るための
消化・吸収の行われている部位ですが、一方ではその消化吸収を助け、消化器官の役割を大いに
発揮させるために肝臓と膵臓は働いているのです。このことを肝に命じ勉強をしようではありませんか。
馬体の背を下にして寝かせた場合の腹腔内と骨盤内の臓器の位置:
肝臓は横隔膜と胃に接し、膵臓は胃に接してみられます。
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馬体の背を下にして寝かせてみた場合の肝臓、膵臓、胃、脾臓、腎臓の腹腔内の位置:
大きな肝臓は横隔膜に接し、膵臓は胃と十二指腸に接して位置しています。
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1.肝臓は生体の化学工場と言われている:
@ 生体の化学工場(栄養素を合成、分解、貯蔵の一人三役を担うのが肝臓)⇔「肝腎要(かんじんかなめ)」の
言葉の通り、肝臓は心臓や腎臓と並んで生体・馬体を健康に維持する上で重要な役割を担っています。
1)位置
@ 胃の前方にあり、横隔膜(横隔面)に直接接し、体軸よりやや右側に偏っています。
2) 大きさ(動物の食性により大きさは異なっている)
@ ライオンやトラのような肉食性の動物は草食性のものよりも大きい。
A 草食性のウマは約5kgで体重の約1%、イヌ(中型犬)は約1kgで体重の約3%、雑食性のヒト(日本人)
では1,100〜1,200gで体重の2%を占めています。
3)形状
@ ウマは赤褐色または暗褐色(イヌは色調が明るい)で、一般に脂肪を多く含むと黄褐色(脂肪肝)となる。
馬体の中で最も重く最大の腺組織で、最も高温な臓器でもあります。
A 馬は5葉(外側左葉、内側左葉、右葉、尾状葉、方形葉)からなり、右葉は四角形で、若いウマで
最大の容積を持っているが年齢とともに大結腸の圧迫によって高齢馬では特に右葉の萎縮が目立ってきます。
B 馬は方形葉の発達が悪く、他の動物と違い胆嚢を欠いているのが大きな特徴です。
家畜と人間の肝臓(内臓面:横隔膜に接していない側)の分葉模式図:
ウマの肝臓は多くの臓器と接しているので5葉に分かれています。更に胆嚢を欠いているのが特徴です。
右葉は若い馬では最大の容積を持っているが、加齢とともに萎縮してくるのも特徴の一つです。
したがって老馬では5葉中最も大きいのが左葉となります。
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4)胆嚢;
@ 胆嚢は胆汁を運ぶ肝管の一部が膨れてせり出した嚢状のもので、胆汁を一時的に貯留させるだけの
嚢(ふくろ)です。
A 胆嚢を欠く動物は:哺乳類の馬などの奇蹄目、鯨目、ゲッ歯目(ウサギ、ネズミ、ラット)の一部、
鳥類の鳩科(ハト、インコ)などです。
5)胆汁の性状
@ 黄色で苦みのあるアルカリ性の液で、人では1日0.5〜1gを肝臓から分泌されています。
A 成分は、水が97%、ビリルビン(胆汁色素)0.2%、胆汁酸0.7%、コレステロール約0.06%からなるが、
消化酵素は含んでいません。
6)胆汁の役目は?:
@ 胆汁酸は、脂肪の消化・吸収に必要で、脂肪の乳化を促して膵臓からの酵素作用を受け易くするとともに、
リパ−ゼを活性化させています。
A 胆汁は脂肪酸と結合し、水溶性となり、腸管から吸収されやすくし、小腸の蠕動を高めさせています。
B 腸内に分泌された胆汁酸の多くは小腸で再吸収され、肝臓に再度送られています。
C 胆汁色素やコレステロールは物質代謝産物で一種の排泄物ですが、胆汁色素は赤血球が脾臓や肝臓で
破壊されたとき、血色素から出たもので、ウロビリノーゲンとなって大便や尿の色を黄色にする基に
なっている物質です。
D 肝臓内では、コレステロールから胆汁酸やビタミンDの前駆体(生体内で合成される前段階の物質)が
生成されています。
7)肝臓はどんな働きをしているのだろう?:
(1) 胆汁の生成:胆汁生産工場
@ 肝細胞の中で生成された胆汁は、アルカリ性で苦味があり、毛細胆管から十二指腸へ排出されています。
A 脂肪の消化と吸収に必要な胆汁酸は、肝細胞でコレステロールからつくられています。
(2)栄養素の貯蔵と加工:再生工場
@ 肝臓に送られた栄養素を貯蔵し、自分のからだに適合した形に加工・再合成し、必要に応じて血流を介して
全身に送り出しています(血中の糖・炭水化物、蛋白質、脂質の量の調節、ビタミンの貯蔵をしています)。
(3) 解毒(げどく)作用:汚水処理場
@ 老廃物や体内からの様々な有害物質を→肝細胞で分解・抱合(ほうごう)・処理などにより→無毒化し
→毛細胆管から胆汁や尿とともに排泄します。
(4)生体防御作用:
@ 生体防御に重要な免疫グロブリンなどをつくっています。
(5) 血液凝固作用物質の産生:流通センター
@ プロトロンビンやフィブリノーゲンなどの血液凝固に重要な役割をする物質の大部分を産生しています
⇔肝臓が悪いと出血時の凝血が良くないことになります。
A 血液を貯蔵し、必要に応じて放出する役割を担っています。
B 食糜中の水分を保留して血液濃度を調節し、心臓に大きな負担をかけないようにしています。
馬の肝臓の仕組み模式図:
肝臓は蜂の巣構造を単位とした集合体(肝小葉といいます)で、この蜂の巣の中心に血管を有し肝細胞を集結させ、
肝細胞は胆汁を造り(胆汁の生成)胆管を通じ消化を潤滑にするために十二指腸憩室(けいしつ)に流しています。
また、肝細胞間には星細胞という毒物や異物を処理(解毒)する細胞が活躍しています。
一方、肝細胞は栄養分を貯蔵し馬体に適した栄養素に変えて血液に流し、生体防御にあずかる免疫グロブリン生成をし、
ケガをした際に血液を凝固させる物質などの重要な役割をしています。
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2.膵臓とは?:消化に不可欠な消化酵素と血糖代謝を行っている臓器です。
@ 膵臓は消化作用に不可欠な働きをする組織で、膵液を産生・分泌する外分泌機能と、主に血糖値に関与する
ホルモンをつくる内分泌機能(ランゲルハンス島が担っている)の二つの機能をもっています。
A 膵臓は、生体の化学的な消化機能(炭水化物分解酵素のアミラーゼ、タンパク質のトリプシン、
脂肪のリパーゼ)は、膵臓に大きく依存しています。
1)作用は?
@ 膵臓は、消化酵素の分泌と血糖代謝を調節しています。
A 膵臓から十二指腸まで膵管で通じ、十二指腸憩室(けいしつ)部に開いて膵液を流しています。
2)膵臓の働き:
@ 馬では、肝臓の裏側と十二指腸に着いていて、強力な消化酵素を含む膵液(弱アルカリ性でpH7〜8)を
十二指腸に約1日1ℓを分泌(外分泌)しています。因みに、人では1日約300〜850cc分泌しています。
A 食糜(しょくび)が通過する際に→十二指腸粘膜でセクレチンと言うホルモンを生産→このホルモンは
一旦血液中に入り→膵臓を刺激→重炭酸ナトリウムを多く含むアルカリ性の膵液の分泌が行なわれ
消化酵素と胃酸を中和しています。
B 膵臓内に分布する小さなランゲルハンス島(膵島)からは、血液中のブドウ糖(血糖)を調節する
ホルモン(インスリンとグルカゴン)を血液中に分泌しています(内分泌作用という)。
血糖は、インスリンで低下し、グルカゴンで上昇します。
膵臓の模式図:
左側の図は十二指腸憩室に膵管を開き膵液を流す仕組み図を、右側上は外分泌作用図で、
十二指腸に消化酵素(タンパク質、脂肪、そして炭水化物の分解酵素)の入った膵液を送る管と膵臓細胞の組織図を、
右側下には、内分泌作用を司るランゲルハンス島の概要図を示しました。
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膵島(ランゲルハンス島)の微細構造拡大と各細胞の機能模式図⇔
膵臓をつくっている主な細胞には膵細胞・腺房(せんぼう)細胞と腺房中心細胞で、大切な消化酵素を分泌し、しかも胃からの
強酸性糜粥を中和する膵液を十二指腸に流す役割をする外分泌作用)とランゲルハンス島細胞(内分泌と言う作用を行っている
3種類の細胞が島状につつまれた細胞群の中に、
A細胞;血糖値を上げるグルカゴンホルモンを産生する細胞、
B細胞;A細胞と逆の作用・インシュリン産生細胞、
ついでD細胞;AとB細胞の未分化型の細胞・ソモトスタンチンを産生する細胞)がある。
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3)膵液の組成;
@ 膵液は、三大栄養の消化酵素をすべて含んでいる⇔膵液にはタンパク質分解酵素である
トリプシノーゲン(腸液中のエンテロキナーゼによってトリプシンに変る)、
脂肪分解酵素であるリパーゼ(脂肪を脂肪酸とグリセリンに分解し、胆汁によって水溶性となり、
腸壁から吸収し易いようにしている)、炭水化物分解酵素であるアミラーゼ(麦芽糖に分解し、次いで
マルターゼによって吸収可能なブドウ糖にまで分解する)などを含んでいます。
A 膵液には、重炭酸ナトリウムが含まれ、胃から送られてきた酸性の糜粥(びじゅく)を中和し、
十二指腸ではpHを約6、空腸ではほとんど中性にしてしまう。
これによって、膵液や腸液の消化酵素の至適(してき)pHとなる。
B 膵液は、脂肪ばかりでなく、炭水化物やタンパク質も消化する強力な消化液である。
しかし、膵臓自身は、膵液で消化されることはない⇔それは、アミラーゼとリパーゼ以外は
十二指腸を出るまでは不活性のままであるから。
C 斃死した場合の膵臓は、死後変化がすこぶる早く腐ってしまう⇔それは、死亡時の膵臓は不活性の消化液の
状態が解かれるために、自身のもつ消化酵素で、他の臓器よりも早く自己融解(じこゆうかい)を
起し始めることになる⇔従って、解剖時には最も早く変質・変性する臓器でもある。
4)膵臓の機能から考えて競走馬・競技馬への穀物給餌方法は?
@ 膵臓のB細胞から分泌されるインスリンは、運動時の血糖値の急激上昇を低下させるホルモンであり、
しかも運動のエネルギーとなる筋肉中のグリコーゲン利用を抑制する働きがあるため、
競走馬にとっては運動中のインスリン濃度が低い方が良いことになる。
A 従って出走あるいは競技4〜5時間前(研究者によっては8時間前)に濃厚飼料・穀類を1〜2s程度
給餌するのが良いとされている。
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