*腸の健康状態のバラメーターを知る絶好のチャンスを与えてくれる便・ボロについて、
また、腸を丈夫にして一生涯を健康で活躍する馬づくりについて述べてみたい。
御崎馬の放牧地での休息:(全獣協 上田 毅氏提供)
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1)肛門について(糞の排泄)
(1)糞便(ボロ)形成に活躍する腸内細菌叢:
@ 腸内細菌の菌数は大腸で最も多く生息しています。
A 腸内細菌は(人間では100種類・100兆個の細菌が常在し、ビフジス菌などの善玉菌とウエルシ菌や
大腸菌などの悪玉菌がある)分解されないで大腸まできた食物の残りかす(残渣)を→腐敗・醗酵させて
→糞便形成に作用しています。
B 糞便は、食べ物の残渣、腸管内細菌、白血球、腸壁の脱落細胞からなり、細菌は便全体の
固形分の約9%を占めると言われている。
C 糞便特有の臭いや「オナラ」がにおうのは、タンパク質の分解で生ずるスカレーットや
インドールといったガスによるものなのです。
D 乳酸菌(ビフィズス菌、乳酸桿菌)⇔腸内のpHを下げ、病原菌の繁殖を抑え、異常発酵・腐敗の防止や
常在大腸菌などの小腸へ入り込むのを防いでいる善玉菌です。
E 完全に醗酵したガス(二酸化炭素、メタン)はニオイが少ない⇔消化不良気味のタンパク質などの
腐敗したガス(インドール、スカトール、アンモニア、硫化水素など)は悪臭が強い⇔オナラの臭いで
腸機能の良し悪しが判ります。
(2)排便のコントロール:相反する二種類の神経の作用による。
@ 内肛門括約筋は、自律神経支配で、肛門の筋肉を緩(ゆる)めるように働く副交感神経と、収縮させる
交感神経が互いに張り合いながら働いています。
A 外肛門括約筋は、自分の意思でコントロール可能な随意筋で、肛門を意識的に閉じたり緩めたり
することができます。食事のたびにトイレに立たなくてもよいのは、この神経に支配されている
筋作用のおかげなのです。
直腸・肛門の模式図:
便の垂れ流しは肛門挙筋の麻痺によることが多い。
また、馬の場合は検温の際の体温計の取り忘れによる直腸穿孔で腹膜炎発により死に至ることが間々観察されるので、
抜き忘れには厳重な注意が必要。この部は肛門管と直腸膨大部に分けられるが、排便やオナラの制御は内・外の
肛門括約筋の作用によって行われている。
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2)良い馬糞と悪い馬糞
(1)良い状態の馬糞(一説には馬社会でボロという言葉は地面に落ちてボロット崩れることかららしい)
@ 小さく、一様にボールのような形。
A 不快な臭いが無い。
B 過度に粘質でない。
C 殆どは地面に落ちて形がつぶれる。
D 色は淡黄色(食べ物によって異なるが胆汁のビリルビンにより着色)。
(2)平常でない状態の馬糞
@ 小さく固い糞⇒消化不良または便秘の場合。
A 暗黒色の糞、粘質の糞⇒肝臓の不調の場合。
B 全般的にゆるく下痢気味⇒競走馬の神経的興奮・異変の時。
C 下痢の時の便⇒黄色に近い⇔これは体内を通過する食糜のスピードが通常よりも速く、
肝臓から分泌されるビリルビンが化学反応を起こす時間がないためである。
D 便秘の便⇒体内に長時間滞留するためにビリルビンの濃度が高くなり黒い。
E 色のついていない便⇒胆汁が含まれていない証拠で、肝臓に異常がある可能性が高い。
F 炭(すみ)のように真っ黒な便⇒食道や胃、十二指腸などの出血を疑う。
G 鮮血の便⇒直腸や肛門の疾患ならびに大腸炎を疑う。
H チョコレート様流動血便⇒盲腸や結腸の急性出血性腸炎・X大腸炎を疑う。
I 幼駒の緑色の便⇒腸内細菌によってビリルビンが酸化されなかった場合で、元気であれば特に問題はない。
3)糞のノウハウ:
(1)馬糞が出来るメカニズム
@ 結腸には食物内容が10〜20時間滞留し、その間に水分を吸収し、徐々に固まり糞となる⇔小結腸および
直腸へ移動し、排糞は肛門括約筋が弛緩し、腹筋の収縮で始まる。
(2)馬は断食3日間で消化管が空になる
@ 摂取した食物の不消化物が最初に糞の中に出てくるのは22〜24時間後で、72時間後にはほとんど
排出されている⇔手術時の前処置の参考に。
(3)馬の糞の英語名
@ 固く丸みを帯びて肛門から落ちるのでdroppingsあるいはdungと呼び、馬の糞は栄養素が残っているので
果樹栽培などの良質な肥料となる。
A ウシや他の動物の糞はfecesフイーシーズと言う。
(4)馬にも生活のリズムがあり体重が大きくかわる
@ 1日に摂取する飼料は体重の2〜3%で、排泄量は体重の4〜5%。
1日の飲水量は平均して体重の4%くらいで、排泄は体重の2%。
従って、1日の体重の振幅はかなり大きい。
多い時で20kgぐらいの差がある⇔体重測定は1日の決まった時間に行うこと。
(5)馬の便秘は1日だけでも重症になる
@ 便秘疝の場合は早期発見と早期治療が必須である。
(6)馬はガスが消化管に貯留して腹痛になる
@ 風気疝(ふうきせん)という。空気の吸引(グイッポ)、腐敗した飼料の発酵ガスなどが原因で起こる。
(7)馬の排糞回数と量
@ 排糞の回数は1日に5〜12回、量は20〜25kg、体重の4〜5%程度に当る。
(8)動物の糞の成分とその始末
@ 糞は動物達の名刺交換に相当する⇔マーキングやテリトリーの誇示にも利用する。
A 馬の糞の成分⇔乾物量24.3%、水分量75.7%、糞中の不消化植物繊維が多く、通気性が良く、
堆積時の発酵は速やかで、容易に高温に達する⇔良質な堆肥となるので高価である。
B ウシの糞の成分⇔通気性も悪いので発酵も遅い。
C 食糧としては、コアラは、離乳食として子供に解毒作用を期待して与える。
ウサギは、高濃度のタンパク質と多量のビタミンB12を含んでいる糞を自分で食べる。
幼駒は母馬のボロを盲腸内への微生物移植用として食べる。
4)短命な腸寿命を長命にしよう!!
*健康な体は多くの臓器に支えられ、それぞれが関連しあいながら独立した働きをしているが、
臓器の寿命にも格差があります。最近、細胞分裂にブレーキをかける働きをするP16というタンパク物質を
使った人医界の研究で、最初にP16が増える臓器は腸と腎臓で有ることが判明しました。
*臓器の生命維持に必要な血液の消費量は全血液の30%を腸(1位)が、腎臓は20%(2位)を占めています
⇔腸と腎臓は多量の血液、すなわち多くのエネルギーを使っていることになります。
その理由として、腸は食べ物から必要な栄養素を吸収していること、腎臓は原尿から体内に必要な栄養素を
再吸収・再利用するために多くのエネルギー・血液を消費していることからもうなずけます。
因みに心臓の血液消費量は5%で省エネにできています。
*腸は、食物からの消化吸収と全免疫力の60%を占める腸管免疫機能(体内に食物とともに侵入する外敵の排除
⇔孤立リンパ小節が対応)にある⇔腸の老化が進めば⇔免疫力低下で外敵・菌や有害物質が侵入
⇔体内の様々な臓器の炎症・障害が発症⇔体に栄養素を上手に利用・運搬・配送できなくなります。
*腸の老化が速まると、腸の血管も障害され⇔腸からエネルギーを供給している各臓器の酸素不足が起こる
⇔最初にダメージを受けるのが敏感な腎臓です⇔更に水分や塩分等の排泄がしにくくなり、
腎臓からの指令で心臓がポンプ作用を高める必要性に陥り⇔心臓に疲れが出てきます。
*腸や腎臓の老化を遅らせることが出来れば、連動して他の臓器の老化も遅くなります。
その対策として、馬体に適合した腸や腎臓のケア、それは日頃の高品質な餌・飼養管理と十分な運動で
可能となるでしょう。即ち、馬に多い腹痛・疝痛・胃潰瘍や寄生虫駆除などに留意することに尽きます
⇔特に馬産地に繋養されている優秀な種牡馬や繁殖牝馬の役割を長期間全うさせることにより、
世界で活躍する日本産馬を多く産出することになります。
次回は、消化器官の働きを大いに発揮させるための肝臓と膵臓について述べてみたい。
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