|
(第5話)馬の運動器系における検査・診断法について
|
(1) 全身観的な観点からの検査の要点
@ 跛行が突然始まったか、あるいは気付かないうちに進行していたか。
A 正確な履歴の把握;運動と現症との関係、受療の詳細、装蹄、既往症など。
B 肢勢や対称性;特に四肢・左右の腫脹や筋肉の萎縮など。
C 硬地上での常歩の検査;四肢の共調運動と跛行の徴候⇔速歩の場合は不明確になるので
常歩での検査にすること。
D 前肢の跛行;硬い平らな場所で常歩・速歩で、診断者へ向かわせたり離れさせたりする。
E どちらの前肢で頭部を落とすか⇔一般的に体重が患肢にかかると頭部を持ち上げ、体重が体側肢(健常肢)
にかかると頭部を落とす。
F 両前肢の跛行;点頭運動を識別するには難しい⇔神経ブロックを行い獣医師の詳細な検査が必要。
G 後肢の跛行;微妙なサインが多い、速歩では頭部運動を示さない⇔硬い平らな地面で常歩や速歩をさせ、
離れて観察すること。
(2) 【検査方法】
@ 跛行検査は、常に蹄から始めて近位・背骨側へと進めること。
A 検査方法としては歩様、触診(炎の四徴;発赤、熱感、腫脹、疼痛)を主体とし、四肢の屈曲、
診断的局所麻酔・神経ブロック、X線、超音波、核シンチグラフィーなど。
(3) 【前肢の跛行】
@ 跛行発症の多くは、前肢では腕節かあるいはそれより蹄までの遠位に、後肢では飛節あるいはそれより遠位に
発症する。
A 蹄:蹄の形態と装蹄に注意⇔蹄冠帯周囲や蹄壁の熱感を対側蹄と比較して検査すること。次いで蹄軟骨の
弾性検査(特に高齢馬には必要)⇔蹄鉗子による蹄の痛みの検査を行う。
B 繋(基節骨、中節骨):直接的な損傷あるいは震盪(左右上下に振り動かす)のことが多い⇔腫脹と屈曲、
触診⇔多くは指骨瘤と遠位種子骨靭帯炎。
C 球節:腫脹の有無⇔可能な限り蹄尖をつかみ屈曲(通常の屈曲は90 度)⇔痛みと触診を重視すること。
D 中手骨:浅屈腱、深屈腱、深屈腱支持靭帯、繋靭帯⇔屈腱炎。第2、第3、第4 中手骨⇔管骨骨膜炎と管骨瘤
⇔触診による疼痛と腫脹、熱感の有無。
E 腕節:前面・背側面で関節包の腫脹の有無、次いで腕節を十分屈曲して抵抗度合いと痛みを検査⇔腕関節を
屈曲したまま、蹄を肘関節の高さまで引っ張り挙げる(腕節屈曲試験)⇔1分間そのまま保持
⇔次いで速歩させ跛行の程度を把握すること。
F 上脚部(橈骨、肘、上腕部、肩):稀にしか疼痛を示さない⇔筋肉群の細やかな触診、関節の屈曲(腕節部を
持ち上げて外側に引く、繋ぎを持ち上げて腕節を中心に上脚部を動かす)、外転、伸展を行う。
(4) 【後肢の跛行】
@ 検査は前肢とほぼ同様だが飛節に関連した跛行が多い。
A 慢性跛行;臀部の左右の対称性と臀部の筋肉萎縮に注意すること。
B 平坦な地面で馬を真っ直ぐ立たせ⇔馬の後方からやや離れて臀部の望診⇔左右対称性に留意すること。
C 飛節(足根関節);足根下腿関節包(関節の背側・前内側面)の腫脹⇔飛節を中足骨と地面が
水平になるように屈曲・保持⇔2分間の屈曲⇔屈曲を解いて馬を速歩⇔最初の6〜8歩で跛行が悪化
(飛節内腫試験;スパビンテスト)⇒この試験は膝関節や臀部の疾患でも跛行を悪化させるので
部位の特定に注意して観察すること。
D 股関節;手の平を大腿骨の大転子上に置き、馬を歩かせながら捻髪音を聴く。
左図:厩舎エリアにおける装鞍所への曳きつけのための風景。
この後に装鞍所への曳きつけを行う:右側に居る厩舎監視員による監視が常に行われている。
右図:出走前の競馬場内風景:
|
(5) 【背中:背部の異常】
@ 背最長筋:背側胸椎棘突起の上から背最長筋を触診⇒尾側の仙椎部へ進めて疼痛の有無を調べる。
A 正常馬:先の鈍なボールペンのような固い棒の先で胸腰部をなでていく⇒背中を下げる。
次いで尾側仙腸部をなでていく⇒背中を弓形に丸める。
B 異常馬:Aの検査で背を強直させて疼痛をやわらげようとして⇒背中を下げたり、丸めたりしない。
C 仙腸部(腰部)の疼痛⇔歩様の乱れ:腰部の触診により馬は地面の方へしゃがみこむ。
D サブクリニカルな背部疾患:獣医師が異常を認め得ない疾患⇔必ず形態学的な病変がある。
慢性背部痛の多くは背最長筋痛が多いので詳細な触診を行う。
|
(第4話)へもどる | (第6話)へすすむ
第1章・第1話へ
第2章・第1話へ
|